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- Chapter6
医学生のお勉強
昨今の医療費自己負担の増加等の議論を聞いていると
いかに医療制度の本質に関わる論点が抜けているかが、
よく理解されるのではないでしょうか
セッションのオリジナルタイトル/Healthcare System and Healthcare Economy
保険適応のためにカルテに書かれているウソ?
司会: |
話題を戻します。先生は皆保険制度を残して、一方で非効率を解消していくために、新しい保険、ここ(資料3)では「民間保険を併せた制度を導入したらどうか」ということをおっしゃってるんですけど、この考え方について。 |
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井伊: |
混合診療のことですね。 |
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司会: |
恥ずかしながら「混合診療」というのがよくわかりません。 |
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井伊: |
日本は基本的には保険診療ですよね。歯科治療などでは自由診療というのも聞きますよね。一連の診療行為の中に保険診療と自由診療を混ぜることは、医師法で禁止されてはいないらしいんですが、厚生省の指導でやっちゃいけないことになっている。 |
- かといって、その胃炎は本当はPPIを処方するのが一番いいんだけど、自由診療になると申しわけないから、「H2ブロッカーで我慢してください」では、より良い治療の仕方があるのにその治療ができないわけです。もう一つはカルテに「胃潰瘍」という嘘を書いて、PPIを保険適用にして患者さんに処方する。そういうことはけっこう普通に行われているようです。アスピリンは最近認可されたのでしょうか? アスピリンは心筋梗塞の予防に効くとよく知られているのに、日本は風邪の場合にしか保険適用にならないから、心筋梗塞で来た患者さんに「風邪」と違う病名を書いて保険適用にしていたそうです。
混合診療を医師会が反対する理由っていうのは、「保険診療と自由診療を混ぜると、お医者さんがどんどん高い治療法、高い薬をすすめてしまって医療費が高騰するからだ」ということで。ほかにも理由はあると思うんですけど、そういう理由で禁止されてるらしいんです。混合診療が認められているのは歯の治療で、歯医者に行くと普通に検査をして、「詰める物で保険がきかない高いものと保険がきくもの、どれがいいですか?」と聞かれますよね。たとえ詰め物が保険適用外のものでも、すべての保険適応の検査はそのまま保険でできます。 - ――:
- 混合診療というのは、同じ日で、ということですか?
- 井伊:
- 1つの疾患で初診から終診までです。
- 上級生:
- もうちょっとわかりやすくいうと、ある患者がウイルス肝炎を起こしている。ある薬はHIVを治す薬として世界的に通用しているけれども、この肝炎についても有効といわれている。だけど肝炎では日本では保険点数がとれない。でもすごくいいからと、患者に使うときに「あなたは肝炎だけど、「HIV疑い」という診断で使います」と。だからカルテを見ると「HIV疑い」と書かれている場合もある。
- 井伊:
- 人権問題ですね。
- 上級生:
- そうなっちゃうんですよ。例えば外科医が患者に針刺しをして、「ひょっとして肝炎がうつったかもしれない」というときに、HIVの薬を飲むんですけど、その患者のカルテを見ると「HIV疑い」って書いてあって・・・。
僕らもクリクラで外来で診察するときに、先生に「今の患者さんの診断は?」と聞かれるときがあるから、実習に慣れてくると、前もって次の患者のカルテを見ておくんです。ただし保険点数をとるための診断名しか書いていないから、必ずしもその疾患を患者さんが持ってるとは限らない。 - ――:
- カルテって、カルテに書いてあるものは、即公式的なものなんですよね。
- 上級生:
- その薬を使うために診断をつけなくてはならない。
- 司会:
- ファイルがあって、カルテの中に「本当は違うよ」とか書いてあるんですか?
- 上級生:
- 外来での実習で一番困るのは、本当の診断がわからないことなんですよ。
- 司会:
- 引き継ぎができないじゃないですか。それじゃカルテの意味がわからない。
- 上級生:
- 本当によくわからない。1個くらい本当の診断名が書いてあるかもしれない。
例えばある薬についてアメリカなんかで正しいデータがでてるのに、それを日本ではまだうまくコンバートされていない。だから日本ではその薬はそういう使用について認可されていない。逆にアメリカではすでに効果がないとわかっているのに、日本では認可されている。そういう変な事態が起こる。つまりお金がなかったり安くできるんであれば、「別の保険適応診断名をつけましょう」っていうわけ。
例えば心筋梗塞を起こしたときに血栓溶解剤を使うのですが、それは脳梗塞のときにいいと言われてるんですが、保険の適応になっていないから1回100万円くらいかかるんですよ。でもそれを、「1回100万円かかります」と家族に言ってやる場合もあるし、あとは、「心筋梗塞なら保険で使えますから「心筋梗塞疑い」にしましょう」と言って使う場合もある。そういう事態が病院によって混在していると思います。 - ――:
- そういうのは裁判になったときに、「あなた、誤診してましたね」と言われないんですか?
- 上級生:
- そうはならないような気がしますけど。確か読売新聞でも何カ月か前に保険点数のことが取り上げられていましたが、私の印象としては「しょうがない」という考え方のようでした。日本の医療は正しいことが行われていない。医者はみんな知ってるんだけど、厚生省が直していない。
- 井伊:
- これからEBMの推進などグローバルスタンダードを目指そうというときにとても変な話ですよね。例えば「レセプト」ってありますね。医療機関が保険者に提出する明細書のことですが、そのデータをアカデミックな面で分析しようとしたときに、疾病名がどれが本当なのかわからないので、国際的なジャーナルに載るような研究をしようと思っても分析できない。
あと「選択することがない」のが問題の一つだと私は思うんですよ。混合診療がもし認められていれば、そこでお医者さんが「ここではこういう値段で、こういう治療ができます」という説明をして、患者さんが「自分は保険でいいです」とか、「少々高くてもこちらのほうにします」とか、ある程度インフォームドコンセントにもつながると思うんです。今は医療技術が進歩してそういう選択が増えてきてると思うんです。歯科治療ではそれが起きていて、「自分はもう年だし保険でカバーされるもので歯を治療して、安くすんだ分で海外旅行をしよう」と思う人もいれば、「やっぱり歯は一生のものだからできるだけいいものを」という人もいる。選択ができない分野もあるけど、今はできる部分も増えてきている。
情報公開にもなって、患者さんが医療に対して責任を持つということにもつながるので、混合診療を認めてそういうふうに患者に選択をさせたほうがいいのではないかなと私は思います。 - ――:
- 今の話のように、保険診療と自由診療の2つを混合させるとなると、保険点数適応の適切なガイドラインのようなものがそろってないというのでは、成り立たないでしょうか?
- 井伊:
- そうした制度を整えていくことも必要ですね。さきほどの医療費が増えてもいいかどうかという話で、私は両方とも正しいと思っています。社会保障として見なくてはいけない部分というのはできるだけ増えないほうがいいと思う。「安いし暇だから大学病院に行こうかな」とか、そういう無駄な部分は効率よくして、「お金を払ってもいいからいいお医者さんに診てほしい」とか、「いい治療を受けたい」と思う人もいるので、そうした医療費は増えてもいいと思う。それを全部公的皆保険でカバーしようとすると、さっき言ったモラルハザードが起きてしまうのでよくない。
公的皆保険が認めるのは社会保障的な部分。ただどこまでを社会保障として認めるのかというのは非常に難しいですね。例えば自動車保険で自賠責に相当する部分を、社会保障としてどこまで認めるのか。「線引きをするのならばどこか」ということが臨床的な立場からいろいろ研究されている。経済学者が理論として言うことは簡単ですが、実際どこで線を引くか、ということは難しいと思うんです。
例えば「自分は1年に1回検査してもらえばいい」という人もいれば、「半年に1回、例えば黒川先生に会って、30分じっくり話を聞いてもらいたい」という人もいる。そのどちらの場合も保険でカバーしてしまうのはあまり良い制度とはいえないのでは。「自分は診療費を別に3倍払うから、そのかわり病院に行ったら30分ぐらいしっかり話を聞いてもらいたい」「自分は自分の健康を信用しているから料金が安い公的健康保険で十分で、あとはおいしいものを食べたり、良い服を着たりしたい」。それはどっちがいいか悪いかは個人の好みだと思う。そういう選択がないことが問題。 - ――:
- 一つの選択しかないところが難しいんですよね。
仲間たちの横顔 FILE No.25
Profile
私は大学で比較文化学を専攻後、米国系航空会社で客室乗務員として働いておりました。4年間で約200回ほどのフライトを経験しましたが、そのうち何度か機内で、急病のお客様が出て、医師の助けを必要としたことがありました。過去には機内分娩を行った医師もいたという話もありました。我々乗務員は、安全要員ではありますが、医学の知識はなく、そのような緊急時にお医者様がいてくださることは非常に心強く、医師という職業の重要性を実感したものでした。以来医師免許を持つスチュワーデスを目指して東海大学へ学士編入しましたが、勉強と仕事の両立はむずかしく、現在は医学部一本です。
Message
6回の講義はすべて出席しましたが、毎回医療に関するトピックを取り上げて、いろいろな話をしたとおもいます。学士編入学者の多くは社会経験があり、また多種多様なフィールドで活躍していた方が多いので、広い視点から一つの問題に関する意見を交換できたのではないかとおもいます。黒川先生のお話は非常に興味深く、とくに塩をなめる草食動物の話や血液で塩分補給をしている民族の話には驚きました。ただ毎回最初のトピックからどんどん内容が変わっていき、最終的には違った問題に関してみな熱くなっていることもありましたが、いろいろな情報交換ができたこと、自分の知らないことを知れたこと、講義以外の場所で学士同士がコミュニケーションをとる機会をもてたことはよかったとおもいます。

