医学生のお勉強

By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
Chapter4:生活習慣病The 26th week

「生活習慣病」を文明と生活という観点から考えると
おのずと対策が見えてくるというものです。

セッションのオリジナルタイトル/Hypertension, Salt, and Kiney: How and Why

チータのような肉食動物でさえも食塩摂取は2グラム

黒川:
黒川清だけど陸に上がった両生類、爬虫類、鳥類、それから哺乳動物は毎日何を食べていたか。哺乳動物に焦点を絞ると何を食べていたと思う? 陸に適応することになって食生活はどうだったかというと、自然界で動物が摂取できる食材は限られている。それは自然の植物か動物に違いない。肉食動物だったら自分で捕まえるか、あるいは死んでいるものを食べる。草食動物でも雑食動物でもどちらにしても食材は植物か動物かしかないから、主に食べているのは細胞なんだ。細胞か、たまっているでんぷんみたいなものでしょ。そうすると自然の食材にはほとんどNaClなんかないわけ。自然の食材でNaClがあるのは肉食動物が肉を食べたときだけだ。肉の周りの血液、つまり「細胞外液の一部!」があるからだね。血だらけの生肉を1kg食べてもその中にある血の量はたいしたことない。でも肉食動物は肉を食べているから必ず食塩を何グラムか摂れる。だけど草食動物は食塩を摂れるはずがない、ということがこれで理解できるね。
 つまり陸に上がったということは、食塩が非常に摂れないというか、ほとんどない環境に来ちゃったということなんです。だけど、「1Gという重力があるから血圧を上げなくちゃならない」という相反する環境にでてきたということだね。
 例えば体重が60kgのチータやなんかは平均して1日2~4kgくらい生肉を食べてんじゃないの。だから肉食動物は1グラムから2グラムくらいの食塩摂取が保障されている。もちろん毎日食べられるわけじゃないかもしれないけどね。草食動物は周りの草を食べてるだけでしょ。食塩を1日に0.5グラム以上摂れるわけがない。人間もそうなんだよ。人間はこないだも言ったように200万年くらい前にこの世に現れてさ、現代人の先祖は10万年ぐらい前といわれているけど、その頃食べているものは、動物を捕まえて食べたりとか、果物を食べたり・・・。何食べてたんだろ? だから今のゴリラとかチンパンジーと同じだよ。ゴリラとかチンパンジーよりはもうちょっと雑食性が強かったかもしれない。そうなると石器時代の人間はいろんなデータの分析から塩の摂取量はある程度予測されていて1日1.5グラムを超えているはずがない、と。
 アフリカの草食動物とか見てると、すごく暑いから汗をかいてる。もちろん「汗の中に食塩出しちゃいけないよ」ということで、アルドステロンがものすごく多いから食塩はほとんど出してないんだけど、汗で自然に食塩がだんだんなくなってくる。草食動物は「オレは塩が足りなくなる」と感じるんだね。僕ら人間にはその感覚が失われているんだけど、たぶん昔の野生人にはあったと思うよ。その感覚があるから草食動物は塩をなめるということをするんですよ。「salt craving」っていうんだけど、塩がどこにあるかを感じるんだね。何をなめるかというと、肉食動物の尿の乾いた後とか。だって水がなくなって必ず食塩だけ残っているから。そういうことを嗅ぎ分けられる能力がある。塩があるところに行ってなめる。何日かに1回はなめる。例えばシベリアのトナカイを捕まえて食料にしたり、商売をして暮らしている人たちは、どうやってトナカイを捕まえているんだと思う? 牛や羊だと、草を育てて、刈って、干草にして、冬に備えている。でも、大きい体のトナカイを育てるためにシベリアに十分な草なんかないんだから、えさを十分にやるわけにもいかないし、草を栽培することなんてできない。大きい体のトナカイを囲っておくわけにもいかない。そういう人たちはどうするかというと、塩をどっかに置いておく。トナカイは時々塩をなめにくるから、そのときに必要な分を捕まえている。
 これはアフリカのハンターも知っている。例えば水は食塩よりももっと必要かもしてないけど、テレビで見ると必ず野生動物の集まる水飲み場があって、もちろん草食動物も肉食動物も一緒。だから草食動物は非常にヤバイ場所にいるわけで、ライオンが来たかなと思うと、サッと逃げる。ハンターも水がある場所で待っていればいいんだけど、そこには草食動物だけじゃなくて肉食動物もくるからヤバイ。だからハンターはどうするかというと、岩塩のある場所で待ち伏せするわけ。肉食動物はそんなところにはくるわけがないから安全。つまり陸に上がったということは、元々極めて食塩の摂取が限られているところにきたということだから、草食動物は食塩を探して見つける能力が必ずあるんだけど、肉食動物はそういうことをする必要はない。 例えば京都とか、料亭に行くと、塩の山が2つ玄関に置いてある。なんで置いてあるの?
――:
魔よけじゃないんですか?(笑)
黒川:
お葬式に行った後みたいに? それはお清めだ。お清めっていうのは帰るときにするんだよ。なんで入り口にあるの? 料亭とかの塩がお清めであれば、お客さんが帰る前の夜8時くらいから出せばいいのに。何も夕方から出しておくことないでしょう。あの塩の山はね、お客さんに「来てください」っていうことなんだよ。
――:
昔、牛車に乗った偉い人を呼び寄せるために塩を盛って牛を引き寄せた、って聞いたことがありますが。
黒川:
そう。すごいね、そうなんだよ、すばらしい。平安時代は高貴な人の車は牛が引っ張っていた。牛が塩に引き寄せられて止まるから、という伝統だよ。牛車が止まると「まあ、ちょっとお忙しいとは思いますがお寄りください」っていうわけでさ、そういうこと。
 食塩は昔からそんなにあるわけじゃないから貴重品なわけ。例えばアフリカの原住民とかさ、マサイとかね、パプアニューギニアの原住民とか、自然の生活をしている人たちの番組を時々テレビでやってるじゃない。今までは本に書かれていたことが最近はテレビで見れて、わかるからいいね。あの人たちの食事を見てると、とても食塩があるとは思えないよね。今は食塩をある程度安く買えるから味付けをしているかもしれないけど、自然の食事ではそういうのはないわけ。でも、マサイ族は比較的食塩の摂取が保証されているの、なぜかわかる? マサイ族って聞いたことある? テレビで見たことない?マサイって、牛を飼っていて牛の顎静脈から時々、こうコップで血を採って飲んでる。あれでビタミンなんかを補給している。それは生活の知恵。さらに血を飲むってことは食塩の摂取も保証されてるってこと。マサイ族は1日2グラムから3グラムくらいの食塩を摂れるんです。ほかの部族はもっと少ない。少なくてもいいんだよ。アマゾンのヤノマモインディアンは食塩の摂取量は1週間で1グラムにも満たない。そのくらいでも十分なんです。
 さっき、腎臓は尿中の食塩の排泄は0にできる、って言ったでしょう。だから僕らの体は食塩摂取量はそこまで少なくなっても大丈夫になってるんです。そういう自然の生活をしている人たちのところには「本態性高血圧」とか、年を取ると血圧が上がるとか、血圧が高いなんて人はいない。つまり「本態性高血圧」と僕らが言ってるのは、食塩をたくさん摂るような生活になってきてから初めてでてきた病気なんです。
――:
以前テレビで見たんですけど、たぶんアフリカだったと思うんですけど、少年が羊の血液と羊のミルクだけを1年間ん飲んでいて元気に生きていられる、という番組をやっていたんですけど。
黒川:
草ぐらいは食べていたんじゃない? それで必要なビタミンと食塩は足りてるけど、それだけだとKは足りないと思う。ミルクは食塩が少ない。そのほかになんか食べてない? 野菜とか果物なんか。果物はKが多いんだよ。


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