医学生のお勉強

By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
Chapter4:生活習慣病The 22nd week

「生活習慣病」を文明と生活という観点から考えると
おのずと対策が見えてくるというものです。

セッションのオリジナルタイトル/Hypertension, Salt, and Kiney: How and Why

「食塩が増える→血圧が上がる」。それは知っているけれど・・・

黒川:
黒川清僕たちの体の中の約60%は水で、その水には細胞の中と外の水があるけど、細胞の外の水が体中を回っている。細胞の外にある細胞外液の量っていうのは何で決まるかというと、僕らの食べている食塩の量で決まる。体全体の中で食塩というのはほとんどがそこにしかない。細胞外液の中に溶けているのが食塩。しかも細胞外液の食塩の濃度は0.9%。だから0.9%の食塩水は生理食塩水という。なんで0.9%のNaClになっているか。それは単細胞生物に細胞膜ができた頃の海の食塩の濃度が0.9%だったんだろうね。それがカンブリア紀以前だね。その後カンブリア紀に生物がたくさんでてくる。細胞膜の外は0.9%のNaCl、中はKなんだよ。僕らだけじゃなくて全部の動物がそうなってる。植物もそうなってる。
 体全体でみると水が体の3分の2、つまり約60数パーセントが水。この水が細胞の中と外に分かれていて2対1の割合になっている。この細胞の外の水が体中の血管の中をぐるぐる回って細胞に栄養を渡している。細胞に栄養を渡すと酸素とエネルギーを使ってCO2ができるから、このCO2を肺から出して口や鼻から酸素をとる。これをしているのが魚だと「えら」です。だけど陸に上がって酸素をとらなくてはいけないとなると、それは「えら」ではできない。だから「えら」から、肺になってくるという進化をするわけ。陸に上がるとNaClをどこからとるか、というと口だけ。そして消化管で吸収されて体の中に入ってくる。生物は常に遺伝子の突然変異をくり返しながら環境に適応して選択されてきてるからね。
 なんで細胞膜を解して、NaClが外で、内にはKしかないの? これ、まったく習ってない? こうなっていないと細胞の膜電位とかが生まれない。なんで? 細胞膜の膜電位はマイナス55ミリボルト程度になっていて、細胞の中は膜電位が変化して、細胞膜が興奮するとかいろんなことがある。これを作っているメカニズムは常にNaを膜の外に出して、Kを膜の中に入れるということをしている。これが大事なことで、これは自然の摂理に逆らっているわけ。濃度勾配があるにもかかわらず逆にイオンを動かして、エネルギーを使っている。ATPを使っている。つまりATPというエネルギーを使って、濃度が逆のものを汲み出している。それが生命の一つの基本原理。
 というように、食塩というのは常に細胞外液にしかないわけ。細胞外液は0.9%のNaClで、体の中でNaClはほとんどほかにない。そして細胞外液の量を決めているのはほとんどがNaCl。細胞の中と外は同じ浸透圧になっているはずだから、NaClをたくさん摂取したとすると、水は細胞外液に引っ張られて増える。増え続けると大変。だから、一部の細胞が縮むとね、「あ、のど乾いたな、これはやばいぞ」と感じて、のどが渇く→水を飲む→そこで細胞外液が薄まる→細胞外液のイオンがまたもとの濃度になる、ということをしているんだけど、これだけだと体内のNaClと水が増えちゃう。で、何が起こるかというと、「これは大変だ、増えちゃったから出さなくちゃ」というわけでどこにでる? おしっことしてでる。ほかにでる場所は体の中にない。NaClがでる場所はおしっこしかない。下痢をすれば別だけど。
――:
汗はどうなんですか?
黒川:
汗も一部でてるけどその量はコントロールできない。でも細胞外液の量はコントロールされている。そうするとNaClというのは食塩だから1日10グラム食べている人もいるし、2グラムの人もいるし、20グラムの人もいるし。塩辛いものを食べたりすれば普段10グラムの人でもプラス20~30%変わるよ。食塩をいくら摂っているかというのは全然みんな感じてない。しかし、体の全体を3、4日平均してみてみると、NaClにしてもKにしてもすべて同じ量しか持っていない。自分のそれぞれの基準値があって、これは「正常値」だけど、みんな少しずつ違う。だいたい今の日本人の生活習慣だと、食塩は平均して13グラムくらい摂っている。Kはだいたい50~100mEqくらい。そんなこと誰も意識していないね。
 だけど体全体にあるイオンの量は一定である。なぜかというと、入ったらこれに見合っただけ、尿にでてる。例えば、暑い部屋にいるとか、運動したりして、うんと汗かいたとする。そうするとNaClが余分になくなるから、その分尿中にでる量が減るというわけ。だから腎臓に「何か変わったよ」というシグナルを送って、ちゃんと見合った分だけ出してる。全体からみるとね、細胞外液、つまり食塩摂取量が増えれば増えるほど血圧が上がる。例えば1日だいたい10グラムの食塩を摂っていたのを強制的に2グラムにしたとする。細胞外液がだんだん減ってくる。2、3日すると余分な食塩は全部でちゃって、細胞外液が「正常範囲」の低めになって、それから毎日2グラム摂っていると、もうこれ以上減らない。2グラムとっていれば尿中には2グラムでる。それで毎日2グラムの出入りでバランスがとれるようになる。

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