医学生のお勉強

By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
chapter2 妊娠、中絶、ジェンダー・イッシューThe 15th week

知って欲しいことはピルやバイアグラの作用や副作用はともかくとして
その背後にあるもっともっと大きないくつもの問題です

セッションのオリジナルタイトル/Aborrtion, Contraception, and Gender Issues

これからの社会は男性だけでは支えきれない

黒川:
黒川清あともう一つの資料(資料3)は、僕がこないだ書いたもの。僕は医学会の話を書いたけど、『Science』とかにいろいろでているんだけど、データを見せないとみんな信じないからさ。「Women Members of National Scienific Academies」という女性会員の比率を示した表でG7国をみるとこうなっている。アメリカが6%、カナダが5.3%。近代科学を支えたというヨーロッパが必ずしも男女同権ではないから、イギリスとかフランスが3.6%それはまた別の機会に話をするとして。トップはどこかというと、トルコの14%をトップに、アイスランド、ノルウェー、フィンランドの順で、5番目のニュージーランドは7.3%。だけどG7は入っていないでしょ。「Third World Academy of Sciences」っていうのがあるんだけど、第三国のことなんだけど、こちらは3.9%。日本の学士院は150人のうち1人しかいない。日本学術会議も210人のうち2人しか女性がいない、0.9%だ。2000年から7人になった。
 「Percentage of women scientists at Japan's universities」っていうのもでていて、1971年からの20年間で女性の大学進学率が増えてきた。だいたい30%。でもマスター、ドクターになってくると両方とも13%ぐらい。それほど増えていない。それはなぜかということを僕は書いたんだけど、サイエンスの学部の学生数の女性と男性の割合が書いてあるんだけど、女性は35%。理学系にくると25%。そのうち数学、物理、化学、生物とくると、生物はやっぱり多くて43%が女性。科学は31%。だけど物理、数学っていうのはアベレージよりは低い。修士、大学院に行ってもやっぱり生物は女性の割合が高いよね。博士をみても割合が高い。しかし一方で日本のメジャーな国立大学の理系の教授では、ポジション1021のうち女性は21人しかいない。そのぐらい非常に少ない。
  ということで、これはなぜか。女性の進出を妨げている理由。一つは日本社会が歴史的にも男性優位で、「男尊女卑」もある。もう一つは終身雇用が基本の雇用体系の問題。会社のほうも、女性の場合は入社しても定年までいてくれるって思っていないでしょ。だからちょっと働いて辞めちゃう。
頑張る女性は自分の力でアメリカに行ってMBA資格を取ったりして、外資系を渡り歩いて「かっこいいなあ」なんて、男性も羨ましいと思っているはず。実を言うと。当初、能力に差があるからという話だったんじゃないの。でもこれまでの雇用体系では男の人はやろうと思ってもできなくて。といってアメリカがいいっていうわけじゃなくてね。世界でも今までの歴史は男性優位であったわけで、アメリカでも「ガラスの天井」、特に白人ではない女性については「コンクリートの天井」があったわけ。日本で女性が役員になるとどうなるか、「障子のスクリーン」。見えないんだけど、そういう中でやらなければいけない。変なプレッシャーがある。
 日本の場合は今までのエスタブリッシュメント、いわゆる「男性優位の社会」でここまで来たんだけど、それはさっきから言っているようにフルタイム、終身雇用で横に移れない。実はごまをすっているような、奥さんに絶対みせられないような、とってもみっともない卑屈なサラリーマン生活を送っている人たちが多いわけ。だからそこに女性が入ってくると、「毎日遅くて大変ね」なんて思っていたんだけど、「本当はたいしたことがないのね」ってばれちゃうことが怖いんだと思う。だから情けない男性社会。というのが私の見解。
――:
ここにくる前に私は理学部だったんですが、大学院に行こうかどうしようか迷ったんです。研究室に女性の先輩がいたんですが、やっぱり女性が研究の世界でやていくのはすごく大変で、まず結婚も、極端な話、例えば「週末婚」みたいな感じでやっていかなければいけないようで。結婚しても出産とかで研究を休む事になると遅れをとってしまうし、上の人に「だから女は使えない」って、とてもひどく責められるような環境。普通の会社よりもそんなふうに言われることが多いんじゃないかなって。といって仕事のことを考えると子供を作ることができないし、なかなか女性が仕事を続けていくには本当に勇気がいるなって思って。
黒川:
日本学術会議でシンポジウムをやったときに上野千鶴子さんも来て、東大を例にとって「アカデミックセクハラ」っていう話をしたんだけど、「理系のほうが表にでてこない分、多い」って言っていた。
――:
私も理系なんですが、東大の生産研に見学に行ったんですけど、女の人が全然いないんです。特に工学系はいない。研究職についても男の人の補佐が多いんですよ。運良く同じ研究をさせてもらえても、女性の場合は給料が一般職になっているんです。就職試験の面接のときに「その違いはどうしてですか? 同じ研究をやっているのにどうしてですか?」って聞いたら、「ウフフ・・・」って笑って何も言えないんですよ。でもそれは某大手の化粧品会社であり、某大手の食品会社であり・・・けっこうそういう現実があるんです。また大学の就職課の人に「工場で働きたいんですが」って言ったら、「そこには女子トイレがあるかどうかわからないよ」って言われました。そういうひどいレベルなんです。
黒川:
このシンポジウムでも若手の女性研究者もたくさん来ていて、今みたいなそういう共通の問題をたくさん提起したんですよ。僕もそれはそうだなあって思うんだけど、その人たちが言うのには自分たちの結婚相手も職場とかその社会の狭い中での相手である。そうすると同じようなキャリアの場合、例えばご主人がどっかで単身赴任しているなんていうこともあったりして。そのことですごくたくさん文句を言っていたわけ。
 だけど僕の言い分としては、それは事実としてそうだけど、しかし男の人もやりたくて単身赴任しているわけじゃなくて、辞めたくても辞められないわけよ。それはさっき言ったような終身雇用、それから「タテのムラ社会」で横に移れない。だから若い男の人たちでいやでやっている人も多い。女性はまだ辞められる権利があるだけまだいい。だけど女性の場合は出産と子育てがあるわけ。もちろん男性も助けなきゃいけないけど男性が子育てをしだすと、彼が家計を支えているストラクシャーで日本の社会は出来ているから、終身雇用だと出世が遅れる。結局ハッピーじゃないのは奥さん、家族。そういう雇用体系で今まで来ている。そのパラダイムも変わってくるけどね。
 だから女性も文句を言うんだけど、「実は男のほうもチョイスがなくて悲惨な生活をしているんだ」という話をしたんだ。だから両方が被害者なんだ。これから雇用関係が変わってきますよ。だって今年とか去年就職した人たちは大手企業でも55歳までいられるとは思ってないもん。今、企業のかなりの部分で年俸制になっていて退職金を少なくしているでしょ。ということはその企業に勤めている間にいかに企業と自分をパートナーシップとして、そして自分のバリューをあげていくか。それは次のマーケットでの自分のバリューが増えるってことで、そういう意味ではいいんじゃないの? いつまでも1つの会社にしがみついてたり貢いだりしない。だって会社だって、今、合併しちゃうんだから。そういうのをクールに考えられるようになる。
――:
先生、それは医者の社会でもまったく同じですか?
黒川:
僕はそうだと思っている。だから「入局して教授に仕える」なんて、そんなことなくなるよ。そうならなければ日本は世界から取り残されるよ。
――:
上の人がすごくいやな人で我慢できなくなったら違うところに行っても、その人はひどい人にはならないですよね。
黒川:
別のところに行って、「この人、すばらしい」って価値が認められればそれでいい。これから女性の社会的機会がもっと広がってくるというのは、実は男性だけでは日本社会を支えきれなくなっちゃうからだ。たぶんそうなっていくと思う。
――:
私が勤めていた大手メーカーは「ムラ」というか、すごく保守的な会社で。「ここにずっと残ろうかな?」って思ったときに、先輩に30歳代とか40歳代の女性がいないんですよ。こういうふうになりたいっていう女性がいないので、その仕事がすごく好きで一生かけてもやりたい、っていうような仕事だったら、これからも会社に残って戦い続けようと思えたんですけど、結局悩んで辞めて、医学部に入学しました。
 さっきお話があったように、私みたいに会社を辞めてほかのことをやることは今までは女性の選択肢だっていうことだったんですけど、私がいたそういう会社でも男の人で40歳代とか50歳代、あとは若手の4、5年働いた人が、「もう1回勉強したい」とか、「アメリカに行きたい」という理由で、私は3月にやめたんですけど、その前後にかなり一緒に会社を辞めました。部長クラスの人も「ここにいてやれることはやったから」って言って。いろいろな選択肢が広がってきていて、保守的と言われている会社でも変わってきているんで、これからというより、世の中はすでに変わってきているのかな? って感じています。一緒に辞めた人の多さで私は実感しました。
黒川:
結局「女性をいかにサポートしていくか」という社会の構造がやっぱり大事だけど、男の人も女の人も2人で同じインカムにするってことだよね。それが男女共同社会っていうわけじゃないけど。ある意味で今までの社会っていうのは「男は馬車馬のように」というけど、実は馬車馬を引っ張っているのは馬で、馬車の上で御者をやっているのは奥さんなんだと。じゃないの? 実を言うと、だからこれからは2人で別々の馬で稼ぐより、1本で走ったほうがいいんじゃないの?
――:
まさしくそうなっていけばいいと思うんですが、例えばそういう見方で改めて去年や今年の女子学生の就職戦線を見てみると、明らかにあれはもう性差別以外の何ものでもないなと。確かに女子学生っていうのはそれとして集団のパワーを持ちようがないのかもしれないんですけど、あれはあまりにも悲惨な男女差別だったなあって、目の前で見せつけられたような気がするんですけどね。あれでなぜ文句を言わないのかな? って。文句はあるんでしょうけど、言う先がないというか・・・。女子学生の就職率っていうのはガクンと落ちていますよね。
黒川:
これから変わっていくっていうのかな、チョイスじゃなくて周りの社会情勢がそれを許せなくなってきたわけで、好き嫌いの問題じゃなくなっちゃったの。そういう世界にどうやって生きていくか、という話じゃないかな?
 それからさっきあなたがメーカーの話をしたように、ベンチャーの話もそうだけど、周りに今、ロールモデルがいないんだよ。日本には。すべてがサラリーマンじゃない? だから、自分がこうしたいと、若い人はいろいろなことを考えていても、モデルがないからわからないんだよ。ロールモデルが1つ出てくれば「まあ、やろうかな」って思える。こないだも話をしたように、野茂が出るからっていってアメリカの大リーグをテレビで日本人に見せたから、それを選んで吉井が行き、長谷川が行き・・・別に行かなくてもいいんだよ、ジャイアンツの選手みたいに。その人の価値観だから。少なくともロールモデルがいれば、やろうとしている人にとってみたら1つの判断材料になるからすごくいい。だから佐々木が行き、イチローが行き、みんな野茂が行ったから行けるようになったわけで、そういう意味ではやっぱり野茂っていうのは素晴らしいパイオニアなんだよね。そういう人がでてくれば、「まあ、やってみよう」ってことになる。そういう人を作るのが僕らの仕事なんだよね。
――:
先生、東海大学に「託児所」ってあるんですか?
黒川:
グッドクエスチョン! 「今、1人子供がいるけど、もう1人子供を作ろうと思っているんだけど託児所とかいろいろと問題があって、今はお母さんとかお姉さんとかが見てくれている」と言っている学生さんがいる。
――:
看護婦さんとかで子供がいる人はどうしているんでしょうね。
黒川:
それがまた問題だよね。みんなが利用できる託児所を伊勢原市に作るとか交渉したい。
――:
女性が仕事を続けるっていうチョイスを考えるときに、やっぱり子供とかそういうことが非常に大きな問題になってくるんですね。医療の世界に入るときもたぶん女性はみんな自分の結婚とか子供について考えたと思うんですよ。たぶんこれからの自分の進路を考えるときに、また同じことを考えるときがくると思うんです。例えばこの大学に託児所があるっていうと、やっぱりそれは非常にプラスの要因になると思うんです。そうじゃないとまたいろいろと考えなければいけないじゃないですか。主人のところに預けるとか。
――:
託児所がなかったら親元に頼るしかないもんね。
――:
新しい病院を作るときに託児所もほしいよね。
一同:
そうだよね。
――:
託児所と禁煙を。
黒川:
それはグッドサジェスチョンだ。今日の実りはそれだな(笑)。
 さっき言ったみたいにこれからの人は、結婚すれば2人で仕事をしながらそれぞれの役割を果たしていけばいいんじゃないかな? だけど今までの日本の場合には女性の地位が確かに低いんだよ。でも楽な部分もある。だって馬車馬にムチを入れている人なんだから。そのへんはなかなか。男の人はやる気もないのに、やだやだなんて言いながらやっている人、たくさんいるもんね。
 来週は生殖医療ね。
一同:
ありがとうございました。

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