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医学生のお勉強 「クレイジー」な国ニッポンを理解しよう
By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
Chapter6:医療経済 The 48th week

昨今の医療費自己負担の増加等の議論を聞いていると
いかに医療制度の本質に関わる論点が抜けているかが、
よく理解されるのではないでしょうか

セッションのオリジナルタイトル/Healthcare System and Healthcare Economy


薬価でもうかる日本の歴史的背景
――: 今聞いていて、法律とかで一気に変えてしまうのではなくて、できる範囲のところからやっていくほうがいいような気がしています。
 例えばいい先生と悪い先生。今の判断の材料はうわさしかない。それに判断基準が人によって違うから、その先生がどれくらいのレベルなのかわからない。そういうのを見分けるために少しずつでも変えていくと、マスコミも大学病院のランクづけとか、先生のランクづけとかを改めて始めると思うから、そうなると書き方も変わってくるんじゃないかな。
黒川: 日本の名医というと、だいたい有名な大学の教授が入っている。「権威」から怒られるから? 消費者が賢くなればそんなことない。自分の負担分が大きくなれば本当にいい医者を探すと思う。
――: 「偏差値のいい大学の先生がいい先生」とみんな思っている。本当に「質」という面で考えていくのならば、考え方が変わっていくんではないか。
井伊: 医学部はどうかわかりませんが、一流大学といわれる経済学部の先生にもいろいろいると思います。大学では競争原理が働いていないですから、たぶんそれは河合塾や代ゼミの先生とは違う。
黒川: だって、進学塾はオープン・コンペティションで、いつもマーケットに評価されているから、一番クオリティー・コントロールされている。
司会: 今はなんとか専門医、認定医だとか肩書きで書かれているけど、広告規制がゆるめられると、僕の勝手な予想ですけど、「××大学卒業」「医学博士号を持っています」とか、看板に書き始めるんじゃないかな。でも東大の医学部イコール「一生懸命話を聞いてくれる」「優しい人」とか、「きちんと説明してくれる」ということではないので、そのうち患者さんが別の基準で選ぶようになる。学歴などが重要視されなくなる。そうなると広告の内容とかが変わってきて、「私は必ず20分は話を聞きます」っていう内容になったりして。
黒川: 広告規制をはずす前にやらなくちゃならないことは、「医師の免許証は見えるところに出しておく」「卒業証書も出しておいて」と、厚生省で言ったわけ。アメリカなんかみんなそうじゃない。患者さんから見えなくても従業員が見えるところに置く。でもそうすると「患者さんが卒業した大学で判断すると思うから」って、反対する人がいる。
 日本の場合は「お医者さん」といったって、名刺に書いてあるだけでなんの証拠もないじゃない。自分が医師である証明がない。だから日本はニセ医者のほうがサービスいいから、患者さんがたくさんくるってことがたまにある。ニセ医者で事件が起こると、私は、「そういうのを見せないからだ」って言ってる。まず、広告とかの前に医師会のほうで、「医師免許、卒業証書等を見えるように示そう」ということを言うべきなんですよ。
井伊: 医師会では、「東大だと行くけど、ほかの大学だと行かない」と思ってるかもしれないけど、それを選ぶのは患者のほうですよね。患者だって東大出身の人のところに行かない人もいる。
黒川: いい人もいるし、悪い人もいるということがだんだんわかってくる。
井伊: 今日、時間があったら話をしようと思ったんですが、鈴木さんの『日本の医療を問いなおす』の本の中で、これは正しい指摘だなって思ったのは、日本の医療費の3分の1が薬代であるということ。最近はだいぶ減ったようですが製薬会社の人が医者に大盤振る舞いをしている。「製薬会社はなぜそんなにもうかっているのか」という話で、私のゼミ生が製薬会社の分析をしているのですが、一般に製薬業界の利益率は高いらしいのですが、日本の場合は特に製薬会社が競争から守られている。これからは合併や吸収などで変わってくると思います。
 それともう一つは医療機器。例えばCTとかMRIとか。これもアメリカの価格の何倍もしていて、国際基準からみると非常に価格が高いんですよね。これが無駄な医療費なのに、お医者さんのほうは「どうせ保険でカバーされているから高くても自分たちが払うわけじゃない」という考え方で、患者も実は自分たちが税金や保険で払っているのに、非常にコスト意識がない。
黒川: 心カテのこともある。ペースメーカーもそうだけど、日本はVVというペースメーカーが150万円くらい。リードワイヤーが18万円。それで医者の技術料はいくらだと思う? 15万円なんだよ・・・お医者さんの技術料はペースメーカーの1割もない。それでアメリカではリードワイヤーとペースメーカーを医者が入れて全部で1万1000ドルぐらい。その差額はどこに行ってるの? 輸入業者。
――: でもそんなにすきがあったら別の輸入業者がやるでしょう。
黒川: だからeコマースになるんだけど。日本は厚生省がみんな行政で認可してってやっているからダメ。だから並行輸入すればいい。
井伊: そういうところに莫大なお金がいっていたりしますよね。
黒川: それでみんな天下りが行っているから、その利権を守ろうとするのかな。
――: そこまで含めた上の規制緩和、とおっしゃったのですか?
井伊: だから、マスコミがもっとそういうことを書いて、それで国民が怒りを持つ。でも、マスコミも知らないんですよね。
 そういう無駄を削って、その分看護婦の数を増やすとかすればいいんですけど。ただ、「30兆円の医療費は多い」ということだけ書かれると、「そうかな、確かに無駄なことって多いな」と思われてしまいがちですよね。
黒川: お年寄りの医療費って今は少ない自己負担でしょ。家族は薬の名前を知ってるじゃない。おじいちゃん、おばあちゃんはガスターとかH2ブロッカーを家族に頼まれたりして1カ月分もらってくる。それで家族はみんなお酒を飲んだり好き勝手なことをしているくせに、おじいちゃんがもらってきた薬を「飲み過ぎたから薬を飲んでおこう」とか言って、軽い気持ちで飲んでる。そういうのはどうする? そういうこと、みんなやっている。高齢者は自己負担が安いから。それがけっこうロスになっている。さっきの心カテは入院の差額は別として1回200万円請求する。病院の収入はそのうち1割だ。
井伊: 鈴木さんの本では医薬分業を非常に批判的に書いていますが、そういう意味では医薬分業というのはそういう無駄なことを・・・。
黒川: 医薬分業がいいのはね、今は医薬分業だといろいろMRが営業にくるけど、今までの日本は薬を処方することで、その差額が病院やお医者さんにくることになっていたでしょ。今はそれをどんどんなくしているから、そうなるとアメリカやヨーロッパのようにいくら薬を出してもお医者さんは1円の収入にもならない。となれば余分な薬は出さなくなる。
 日本は歴史的にお医者さんは「薬師」だから、「薬をくれない人はいやだ」という国民の概念があったわけ。だから、薬をくれないお医者さんはヤブだとなる。だから昭和36年のときに薬価でお医者さんが儲かるようにした。医師の技術はほとんど評価してない。そういうビジネスだったから。だからさらに、患者さんはお医者さんに行って、薬をくれない人はいやだ、ということになってしまった。だけどヨーロッパでは17世紀に「お医者さんは薬で儲けてはいけない」という医薬分業の法律を作った。それはなぜかというとヨーロッパでは偉い人が暗殺をされることが多いから、医者に毒をもられるんじゃないかというのがあった。だからお医者さんは処方はするけど薬は出せない。それから薬局のオーナーも医師がなるのはダメと。だから完全に分業しているわけです。歴史的なことなんです。暗殺を避けるため。だから、ヨーロッパのお医者さんは技術で収入を得る。今はなくなってきたけど、日本は薬をあげることで収入を得る。そういう歴史的、文化的な背景がある。日本はそういう歴史的な違いによって、みんな「お医者さんていうのはどういう人=薬をくれる人」と思っていた。そういうカルチャーがあるから、日本の薬は効いても効かなくてもいいから副作用が少ないものを認めてきた。国民もそういうものを求めてきた。何か起こったら困るから。
 「医療はアート」だっていうところがある。アートって相手がどう思うかで、違うじゃない。患者さんは話をしてあげると安心するじゃない。僕も東大にいたときには週に1回教授回診をしていた。患者さんは話をしたいから、僕は必ず話をしながら診察するわけ。患者さんには必ず、「受け持ちからあなたの病状は聞いてるからよく知ってますよ。何かあったらどんどん受け持ちに言ってくださいね」と言って歩いているけどね。患者さんはそれを待ってる。いろいろ聞くと安心する。患者さんを診察して会話をしない回診は最悪。いつも受け持ち医とほぼ同じことをするんだけど、1週間待ってるんだから、それに応えてあげないと。
 患者さんのお医者さんに対する一番の不満は話を聞いてくれないことです。医師は時間がない。これが一番の不満なんです。アンケートをとると。
司会: 日本に比べるとずいぶん長いはずのアメリカですら、苦情の一番は、「時間が短い、もっと話を聞いてほしい」。
――: お医者さんに聞いてもらうだけで、なんか良くなったように思える。
――: アメリカとかは、看護婦さん、ナースプラクティショナーが話を聞いてくれる。
黒川: 私がアメリカにいたときも高血圧外来は看護婦さんでやっていた。何かあるとドクターに電話してくる。
井伊: 私は大学の教員ですが、入試のときは大忙しです。国公立だと医学部の先生もセンター入試の監督をしたり、コピーをとったりするのも自分でするそうです。お医者さんに時間がない。そういうことはアメリカでは考えられない。
 よくお医者さんに、医療制度を改革していくには誰がイニシアティブをとるべきなのか、経済学者なのか、厚生省の役人なのか、医者に何ができるのか、という質問を受けます。私の尊敬する経済学者で、最近大阪大学から東大へ行かれた八田達夫先生は、借地借家法の改正に大きな役割を果たしたのですが、「医療改革などの大きな制度改革をするときには、まず経済学者の役割は改革の構図を示してマスコミを説得すること。あとは大蔵省に後ろ盾になってもらい、議員立法をすることではないか」とおっしゃっていました。また、ありとあらゆる政党の勉強会に行って説明したそうです。そして政治家の中で話を聞いてくれる人を味方につけた。
黒川: 今朝も8時から民主党に行って大学問題について2時間話してきた。自分でどんどん行って、政治家にもいろんな意見をとどけないと。
井伊: あとは国民の熱意。それがすごく大事。
 大学の先生もお医者さんと同じでサービス業ですが、わかりやすい授業をしてもお給料が上がるわけじゃない。そのためだけではないと思いますが、工夫されていない授業も多いですね。
黒川: それは国立大学? 半分以上の先生は不良債権かもしれない。
司会: 時間がそろそろ来ました。どうやってまとめたらいいのかわかりませんけれども、実際僕らがお医者さんになったときに、また違った視点で保険制度に対して勉強するポイントがわかった気がします。また継続して勉強していきましょう。とりあえず今日のところはお開きで、ビールを待ちましょう。

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