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医学生のお勉強 「クレイジー」な国ニッポンを理解しよう
By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
Chapter4:生活習慣病 The 28th week

「生活習慣病」を文明と生活という観点から考えると
おのずと対策が見えてくるというものです。

セッションのオリジナルタイトル/Hypertension, Salt, and Kiney: How and Why


ナトリウムチャンネルの変異→高血圧の遺伝子? その1
黒川: 高血圧の遺伝子といわれるものはいくつもある。「リドル症候群」というのは家族性に高血圧が多いという病気の一つなんだけど、さっき遠位尿細管に作用するアルドステロンの話を少ししたでしょう。このアルドステロンのターゲットというのがナトリウムチャンネルで、食塩を再吸収するこのチャンネルを増やす作用がアルドステロンにある。それで食塩を尿中に出すまいとするわけ。このリドル症候群というのはアルドステロンがたくさんあるような病気だということが今までわかっていた。最近、遺伝子の解析をしてみたら、そのナトリウムチャンネル遺伝子に変異がある、ということがわかったんだ。つまりアルドステロンが体の中で常に過剰に作用しているようになっていた。このナトリウムチャンネルというのはα、β、γの3つの蛋白からできているんだけど、今まで見つかったこの症例は全部βかγに突然変異が起こっていて、その結果このナトリウムチャンネルの機能を亢進させている、つまり遠位尿細管に届いた食塩をどんどん再吸収して尿に出すまい出すまいとして、アルドステロンが過剰になっているような機能をしているということがわかった。これで「リドル症候群」の人は、そういうチャンネルの機能に亢進があるから高血圧になるということがわかったんだ。
 遺伝子の突然変異はランダムに起こっているから、チャンネルの機能を失うような変異も似たような確率であるはず。では、チャンネル機能をロスした人はどこにいるか? それは赤ちゃん。生まれるまでのお腹の中は海にいたときと同じ。重力は6分の1だし、羊水に囲まれているし、血液は直接臍帯からくる。だけど生まれた途端に重力がかかってくる。お母さんから離れて、自分の皮膚の周りは羊水じゃなくて突然空気になっちゃう。オギャーと泣いて息をしなくちゃならない。動物が陸に上がったという進化のプロセスと同じことが、生まれた途端に起こる。血圧が急激に上がる。血液も腎臓の糸球体でどんどん濾過されておしっこになってでてくる。そこで食塩を再吸収する機能を失うようなナトリウムチャンネルの変異を起こしたら、どんどんおしっこの中に食塩が失われるから、生まれた赤ちゃんは1、2週間で細胞外液が減ってショックになって死んじゃいます。先天性のアルドステロン欠損症がそうです。お医者さんがすばやく見つけてれば別だけどね。自然の世界ではお医者さんが見つけることはなくて、「選択」されて死にます。
 自然の世界では赤ちゃんはお母さんのおっぱいを飲む。お母さんのおっぱいは血液よりずっと薄くて食塩は少ししか含まれていない。でも自然の社会で哺乳動物っていうのは、赤ちゃんは最初はおっぱいを吸って生きてる。おっぱいは以外は何も食べてない。おっぱいに食塩が少ないということは、それぐらいの食塩で十分育つということの一つの証明だね。自然の世界で、もしおっぱいにたくさん食塩があったら、お母さんはどうなると思う?どんどん食塩が失われるからどんどん摂取しなくてはならない。突然、草食動物みたいに食塩を感知しなくてはいけなくなっちゃう。
 だからこのリドル症候群というのは、ナトリウムチャンネルの機能の亢進があるという変異。でも、自然の社会ではこういう変異が起こるのは得なんだよ。適応だね。だって食塩の少ないところで生活しているんだから、より生存に有利なんだ。ものすごく食塩が摂取しづらい草食動物のような生活を強いられているときに、この変異を持った人たちは得なんだ。少し血圧が他の人より高めかもしれない。とはいっても、本来は食塩の摂取量は少ないから血圧は低めなわけ。だから、こういう変異があると、少し血圧が高めだとちょっとアグレッシブになるかもしれないな。だけどそれが今言ったみたいに200、300年の歴史で突然食塩をたくさん食べるようになったから、高血圧という損な病態になってしまった。高血圧の関連遺伝子だというけど、それが今まで残っていた理由は生存に有利だったから。食塩が少なかったときだったから、血圧が他の人たちより少し高くても問題がなかったわけです。

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