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医学生のお勉強 「クレイジー」な国ニッポンを理解しよう
By 東海大学医学部長・黒川清とゆかいな仲間たち
Chapter2:避妊、中絶、ジェンダー・イッシュー The 14th week

知って欲しいことはピルやバイアグラの作用や副作用はともかくとして
その背後にあるもっともっと大きないくつもの問題です

セッションのオリジナルタイトル/Aborrtion, Contraception, and Gender Issues


ピルはもう古い!? 諸外国はすでにアフターピルか
黒川: 5年生のあなたはどう? ピルの問題。
上級生: 私は賛成だと思うし、だいたいみなさんと同じ考えですが、やっぱり女性の体を守るためのもので、前からピルがなぜ普及しないんだろうかってとても疑問に思っていて、それを考えたときにやはり日本の文化的な背景が根強く残っているのかな? なんて。
 アメリカでは卵管結紮術なんかはけっこう症例が多くて、けっこうびっくりしたんですが、結紮するからおそらく半永久的に妊娠しない。おそらくもう一度手術でつないだとしてもだめだと思う。
黒川: だからそれもびっくりしちゃうよね。子供が3〜4人いるからって結紮するってことは。でも女性が手術して避妊するってことは・・・大変なことだよね。男の人が、「子供はもういいや」っていうときには、女性はそこまでやってくれるっていうか、やるのかな?
上級生: さっき聞いていて思ったのは、ちょうど今小児科をまわっているんですが虐待児が多いんです。望んでできた子供も虐待されると思うんですけど、ひょっとして望まれない子供は虐待される可能性が高いんじゃないかという気がするんで、ちょっと市川先生に聞いてみようと思って。
黒川: 「おまえは予定外の子供だったんだ」って言われれば子供は傷つくよね。つい言ったとしても。子供は思った以上にいろいろなことに感受性が高いんだよね。学生さんもそうだけど。どう?
――: 僕はピルの認可までの経過を初めて知ったんで、ピルの認可については賛成。ピルを認可するってことは女性にもきちんと選択肢を増やしてあげるってことで、非常にいいことだと思う。副作用がでたらどうしようとばかり考えて、結果が一番悪いほうに合わせるっていうのは何か違うと思う。日本っていうのはすごく面倒見が良すぎる。「大きなお世話だ」って感じ。
黒川: それはまた別の機会にトピックとして取り上げてもいいと思うよ。「甘えの構造」っていうのがあるじゃない。その裏にはお上に対する甘えの構造がある。
 あとはね、一つはピルを飲むってことはすごく女性にとって負担が多いと思うんだよ。薬を毎日1回、定期的に飲むって。ピルボックスとかあって、飲み忘れないようにいろいろと工夫されているってよくわかるんだけど、大変だよね。1回ミスするとまたやり直しなんだから、あれは相当負担じゃない? ストレスフルだよね。自分で時間を決めて毎日飲むようにしたとしてもすぐ忘れちゃうよね。だって痛み止めとか「毎日2回飲みましょう」とかいっても、1日か2日ですぐ忘れちゃうじゃない。だから自分で毎日1錠定期的に飲む事だって相当大変なことだよ。
 でももう一つは、カップルで男性が知らない間に女性が飲んでいたりする話があったりして。ただ日本の男の人って、かなり社会でこき使われても辞められないじゃない。そういうときに奥さんが「忘れないように」っていって、毎日枕もとに一つ置いていて、それが減っていくのを見ているのはご主人にとってもかなりプレッシャーがあるんじゃない? どうかな。
――: でもそれは、きっといいことなんではないでしょうか。仲がいいってことで。
黒川: 前にも言ったように、日本は夫婦とかファミリーを中心としてできている社会ではなくて、やはり社会とか国が中心になった社会に、個人が参加させられている。そういうのがどうしてもあるね。だから個人の関係がいわゆる西洋的な現代文化とかちょっと違うところがあって、もちろんいろいろと違った観点があるけど。それで戦後の日本はずっと終身雇用制だったからどこにも逃げられなくて、だから必死になって働いてくらくらになっているのに、ピルを飲んでまた次のピルが枕もとに置いたあったりするとかなりのプレッシャーだな? って思ったんだけど。
――: そういうふうに夫婦はなっていくものなんでしょうか? そういうふうに、愛の形っていうのはせかされるようにしなければいけない、って感じるようになってくるんでしょうか?
黒川: 結婚して何年も経つと愛の形っていうのはそういうものにかなり変わっていくんじゃないの? 愛の形とか夫婦の関係とか。例えば結婚して10年もすると朝食のときにも何もしゃべらなかったりして。でもそこでひとこと言ってあげるってことが日本ではあまりないじゃない。
――: じゃあ、そういうふうに頑張ってみるとか。
――: でも、子供ができるとはっきり変わるよう、それは。例えば、妊娠中はできないでしょ。生まれた後もしばらくはできないでしょ。いつ再開しようかって(笑)。
黒川: 日本の伝統では家と家との結婚っていうのがある。けっこうあるじゃない?「子供作って」って。厳しいよね。「子供を作って」って言われるんだから、子供を作ることが目的。だって結婚は個人の契約じゃないから。歴史的にも世継ぎの問題。アメリカやヨーロッパは毎日のように「I Love You」って言っていなければいけない。
 これ、もう一つの資料(資料2)はね、 実はピルの認可が日本だけ遅れているうちにアフターピルっていうのがもうでてきちゃったんだ。だからもうピルを飲まなくてもよくなった。STDに対してはコンドームだけど、たまたまハイリスクじゃなくてある程度レギュラーなパートナーがいて、夫婦じゃなくても、で「ちょっとまずかったかな?」「妊娠する可能性があるかな?」って思ったときにこれを飲む。モーニングアフターって、あとでいい。これはアボーションピルとはまた違うんだ。中容量ピルを飲むんです。だから今はアフターピルになってきていて、「日本はついにピルを認可しないで全部アフターピルになったのね」っていういかにもみっともない話。IUDはどう? アメリカではけっこう使っているでしょ。日本でも使っている人いると思うよ。リングみたいになっているのを子宮にいれるの。
上級生: IUDを子宮の中に入れて受精卵が着床しないようになっている。ピルとかはいつも前にのまなければいけないけれども、性交後でも受精してから着床するまで1週間程度あるから、もしできては困るなっていうときにアフターピルを使えば100%大丈夫。100%じゃないにしても非常に確立が高い。
黒川: でも避妊で一番確実なのはピルじゃない? コンドームとかと比べて。だからピルは一番安全ではある。IUDの場合は半年に1回とか1年に1回とか、入れ替えないといけない。もう一つはIUDでinfection起こすんだよね。IUDを使っている人に特殊な菌がでる。
――: 炎症のもとになりますね。
黒川: そりゃあ異物が入っているんだもん。それに必ずしも閉ざされた世界ではないから。一応閉じられているけどね。
――: けっこうな確立で感染症が起こるんですか?
黒川: いや、IUDのinfectionそれほどでもないけど。infectionしたら取っちゃう。普通はすぐには気がつかないでしょう。でも気がつかないとだめじゃない。骨盤膣内の慢性の炎症っていうのは、女性は自覚症状がわりに低いからけっこう進んでしまう。
――: ちょっとおうかがいしたいんですけど、男性のパイプカットっていうのは不可逆的なものじゃなくてもう1回もとに戻せたりは・・・。
黒川: 一応、不可逆的ですよ。だけどパイプカットする人はたいてい結婚して子供が2、3人いて、「もう子供はいらないな」っていう人がしていることが多いんじゃないの。だからまだ結婚していないのにパイプカットするのはねえ。
――: でも女性は結婚していなくても、避妊のために炎症の可能性があるにもかかわらずそのIUDとかの器具を入れている人もいるわけで、そのリスクと、男性が結婚するまでにそういう手術の処置を受けてもう一度戻すっていうのでは、どっちがリスク高いんでしょうか?
黒川: 戻る可能性が低いときもある。でもむしろ男性はだいたい血を見るのが弱いね。
――: それだけ女性は炎症とか副作用を知られているような手術がいくつもあるのに、男性もちょっとすればいいんじゃないの? って。
黒川: グッドポイントでしょうね。それはどうしてでしょう。
――: 僕みたいな人がいるから? (一同笑)
――: そういう処置の方法はあまり知られてないし。
黒川: だから性行動については別に女性が受身だとかアグレッシブとかいうことではなくて、バイオロジカルな理由はいろいろある。だって常に子供を作るときと関係なくセックスしているのは人間だけでしょ。あとは猿の一部ぐらいじゃないの? それは要するにソサエティを形成するための脱エネルギーというか、けんかをしないようにしているとか。ジェンダー・イッシューの問題とバイオロジカルなプロセスとはまったく無関係な話じゃないよね。
 さっき言った家族計画じゃないけど、もう一つはさっきの『AERA』によると、調査した4ヵ国で「予定外の出産」と「望まない出産」、「中絶」の割合っていうのはそれほど変わらないのかな? って。でもアメリカ、フランス、中国と比べて、日本では「望んだ出産」の割合が少ないって書いてあるけど。
――: この4ヵ国でピルの普及率のデータはあるんですか?
黒川: フランスとアメリカではもちろんオープンで選択肢がある。中国はどのくらい? あまりよく知らない。それから、もちろん国連加盟国の全部っていうけど、先進国以外は「どこかの国で認めているよ」っていえば、そのまますぐに認めてくれるようなものだから、プロセスについては日本ほどうるさくない。さっき言ったようにカルチャーの問題もあるとは思うけど。国連とか、女性団体でかなり問題になった。「なぜ日本だけだめなんですか?」って。
市川: これはだいぶ違う分野かもしれないけど、僕が向こうに長くいて日本に帰ってきて、例えば日本の予防接種をとってみても、日本はとてもいい予防接種薬の生産国だと思う。でも予防接種自体は普及しない。それから、今ではアメリカで閉経後の女性が女性ホルモンを飲むっていうのは常識になっている。腰が曲がっている女性のお年寄りいるでしょ。ああいうのはアメリカではあまり見ないわけです。ミルクを飲んだり、カルシウムをとっても全然だめってことがわかっていても、日本の産婦人科では、大学でも、「女性ホルモン等を飲むのは銀座のマダムぐらいだ」っていう取り扱いもある。アメリカに比べると新しいものへはまず「尻込み」という原点があるようです。
黒川: 高齢化社会になって、転んだりして寝たきり老人になると、1年でだいたい70%の人が亡くなっちゃうんだから。アメリカとかは高齢でもすぐ手術しちゃうでしょ。だけどもしそれが不可能な人にはどういう対処をするんだっていう、マイナスのイメージがあるんだけど。『New England Journal of Medicine』なんかにもでているけど、女性も高齢になるとエストロゲンが減るわけでしょ。増えることはない。だから女性ホルモンはプラスの方が多いから多くの人たちが飲んでる。でも飲むのは主体性がある人だから、ヨーロッパやアメリカは30数パーセントの人が閉経後に女性ホルモン剤を飲んでいるけど、日本だとたぶん数パーセント。それに日本では元々カルシウムの摂取量も少ないし、ミルクなんかもそのへんは年取って飲んでも仕方がない。
 そのうち話をするけど、「peak bone mass」という「20歳から25歳までの骨量をどのくらい多くするか」ということが大事。骨は25歳からはどんどん減っていくだけだから。ピークの骨量が小さければ早く減っちゃう。それに生理が終わると骨はギューっと5、6年で減っていくから。だからいかにピークの骨量を増やすかというと、若いときに運動をしなきゃ。若いときに荷物担いだり、走ったりして運動をしておかなきゃ。『New England Journal of Medicine』にでているけど、14歳ぐらいまで白人も黒人も女の子の骨量は同じ。それから20歳までに黒人はグーッと増えるけど、白人はあまり増えない。日本の若い女の子がスリムになりたいっていうことでダイエットしてるでしょ。運動もあんまりしないでしょ。そうするとpeak bone massが絶対低いです。だからその人たちが、これから40歳、50歳になって閉経後の今から20〜30年先の世界っていうのは本当に暗いものなんじゃないかなあ。それで長寿社会っていってもどうなっちゃうんだろう。だけど骨量を減らすのを遅くするためにはミルクを飲んだり、運動をしたりとかして、増えないけど減らさないっていうことがすごく大事。だから骨粗しょう症なんて子供のときが問題なんだよ。子供のときにいかに運動したり、太陽の光にあたったりして丈夫な骨を作るかが大事。これはちょっと話がずれるけど。


仲間たちの横顔 FILE No.10
Profile Dr.Iekuni Ichikawa 市川 家國
慶應義塾大学医学部卒業後、北里大学病院で小児科病棟医をしていました。なぜ母校ではない北里大学病院を選んだかというと、当時の北里大学は病院も医学部も創設間もなくて、教授たちが臨床を教える対象は「研修医だけのはずだから、他より学べることが多い」とよんだからです。
3年後、カリフォルニア大学サンフランシスコ校へ留学。そこでブレンナー教授に出会い、自分の求めていた環境が実現できました。そこから20年以上にわたるアメリカ生活が始まりました。その後ハーバード大学医学部を経て、85年よりバンダービルト大学医学部小児科学の教授と、NIH(米国国立衛生研究所)にCenter of Excellence in Pediatric Nephrology & Urology、最優秀小児腎尿路疾患研究施設の指定を受けた研究室の室長をしております。
黒川先生から熱心に誘っていただき98年から東海大学医学部小児科学教授として、プライオリティの高いテーマである「医学教育」について取り組んでいます。
私はアバーティカルと呼ばれる大学の制度を利用して、臨床医として勤務する日常から先天性小児腎尿路疾患の基礎研究フィールドにアプローチすることができました。残念ながら日本にはこれに類する制度がありません。少なくとも私の米国での経験をフル活用して、臨床医から出発し、その経験を活かしながら基礎研究に充実する「クリニシャンサイエンティスト―臨床科学医」になる人が育っていくことを期待しつつ、現在は1ヵ月のうち3週間を日本で過ごし、残りの1週間は研究室のあるバンダービルト大学に帰るという二重生活をおくっています。
米国流がすべて正しいというわけでは決してありません。米国のやり方については、よくその背景を理解しながら大いに参考にすればよいでしょう。何事も歴史的、社会的背景によりけりで、答えはひとつではありませんから。
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このセッションは学士入学者を対象としているため他学部を卒業して社会経験をして来た学生が色とりどりにいる点が、討論の内容を実に豊かなものにしているという印象を受けました。私は単に座っていただけでしたが。各人の発言を思わず目を見開いてじっと最後まで聞き入ってしまったという学生もいたと思います。
私は医学教育は全て学生と教員とのディスカッションによって成り立つと思っています。言って聞かせるのではなく、勉強のモチベーションを与えるという点において、私にとっても参加した学生にとってもひとつのきっかけになったことでしょう。

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